独裁者の姫 一章 影の病

独裁者の姫 一章 影の病

last updateDernière mise à jour : 2026-03-05
Par:  ジョンセンフンEn cours
Langue: Japanese
goodnovel16goodnovel
Notes insuffisantes
13Chapitres
775Vues
Lire
Bibliothèque

Partager:  

Report
Overview
Catalog
Scanner le code pour lire sur l'application

 ディグニス帝国の皇女リアナは17歳になったが、まだ結婚相手も決まっていないことが恥ずかしいと感じていた。そんなある日、嫌々出向いた社交界でひと悶着起きた後に、野良ネズミに導かれるように今まで見たことのない部屋を見つける。そこには父の名が記された一冊の本があった。それには、まだ来ていない未来のことが記されていた……     ー半年後、我が娘を……               暗殺するー  皇室心理戦サスペンス。

Voir plus

Chapitre 1

一章 影の病 - 第一幕

ここ最近にあったことと言えば、隣国のヌーク王国が我がディグニス帝国に併合されたことだろう。以前から併合の話は出ていたけど、隣国の君主がいつまでもそれに応じる姿勢を示さないまま6年が経っていた。特に脅威と言えるほどのモノでは決してなかったと思う。でも、我が父、皇帝サリエフの言う限りでは、我が帝国の臣民が幾つか拉致監禁されていると、拷問を受け死者もでている。これらの報復と救済を目的として侵攻をし無条件降伏に持ち込んだと言う。

物騒な話ではある。しかし、今に始まったことでもない。以前から父は似たような口実を持ちかけては武力による領土拡大を進めてきた。そのおかげもあり今や我が帝国は世界でも覇権を握らんとするまでに成長していた。敵も限られてくる。だからこそ、あんな小国が我が帝国を挑発するようなことをするものなのか、いささが疑問で仕方ない。

と。そんな、くだらないことに部屋の窓から帝都を一望し没頭するのが私の日課。この部屋から見渡す景色はまさに平和そのもの。血生臭い光景など目に映るはずもない。

「姫様、朝です。早く起きてください。まもなく着付けの者が参ります」

扉を挟んだ向かい側から、いつになく聞き覚えのある男の声がする。毎朝、偉そうに私を起こしにくるくせに一度も私より早く起きたことのない専属護衛のオルディボだ。扉に邪魔され姿こそ見えないが、その声からも分かるほどに若い30代ほどの護衛だ。そこまで体格が良いわけでも護衛として優秀なわけでもない。ただ、顔だけは整っている。だからかえって腹が立つ。

「ありがとう。貴方のおかげで今日も遅れずに済みそうだわ」

「いえ。これが仕事ですから」

そんな仕事は無い。まんざらでもない態度で男は返答した。朝一の皮肉をものともせず話を続けようとする男に対し姫はベッドに横たわり話を聞く態勢に入った。前日、そのまた前日と変わることのない予定を垂れ流し聞くだけの朝のルーティン。正直何一つ頭に入ってはいない。そもそも聞く気すらないのだから。

しばらくすると、着付けの者達が部屋の前に到着した。

「リアナ様。私です。ミリアです。着付けのお手伝いに参りました」

私はベッドから起き上がると、ゆったりとした足踏みで部屋の扉を僅かに開けた。そこには二人のメイド服を着た女性が礼儀正しく待機していた。その先頭は黒髪を胸まで伸ばし、気の強そうな顔つきで私を見つめるミリアが、後方は赤髪をキッチリと結んだ気の弱そうなメガネの新人アロッサがいる。よく見れば、奥にはオルディボが待たせたなと言わんばかりの表情でこちらを見つめている。どうやら、自分の仕事がここまでだと言うことを心得ているようだ。こればかしは、ご苦労様と言ってあげても良いと思う。姫は、僅かに微笑むと特に気にかけることもせず、二人だけを中に入れ扉を閉めた。

Déplier
Chapitre suivant
Télécharger

Dernier chapitre

Plus de chapitres
Pas de commentaire
13
一章 影の病 - 第一幕
ここ最近にあったことと言えば、隣国のヌーク王国が我がディグニス帝国に併合されたことだろう。以前から併合の話は出ていたけど、隣国の君主がいつまでもそれに応じる姿勢を示さないまま6年が経っていた。特に脅威と言えるほどのモノでは決してなかったと思う。でも、我が父、皇帝サリエフの言う限りでは、我が帝国の臣民が幾つか拉致監禁されていると、拷問を受け死者もでている。これらの報復と救済を目的として侵攻をし無条件降伏に持ち込んだと言う。 物騒な話ではある。しかし、今に始まったことでもない。以前から父は似たような口実を持ちかけては武力による領土拡大を進めてきた。そのおかげもあり今や我が帝国は世界でも覇権を握らんとするまでに成長していた。敵も限られてくる。だからこそ、あんな小国が我が帝国を挑発するようなことをするものなのか、いささが疑問で仕方ない。 と。そんな、くだらないことに部屋の窓から帝都を一望し没頭するのが私の日課。この部屋から見渡す景色はまさに平和そのもの。血生臭い光景など目に映るはずもない。 「姫様、朝です。早く起きてください。まもなく着付けの者が参ります」 扉を挟んだ向かい側から、いつになく聞き覚えのある男の声がする。毎朝、偉そうに私を起こしにくるくせに一度も私より早く起きたことのない専属護衛のオルディボだ。扉に邪魔され姿こそ見えないが、その声からも分かるほどに若い30代ほどの護衛だ。そこまで体格が良いわけでも護衛として優秀なわけでもない。ただ、顔だけは整っている。だからかえって腹が立つ。 「ありがとう。貴方のおかげで今日も遅れずに済みそうだわ」 「いえ。これが仕事ですから」 そんな仕事は無い。まんざらでもない態度で男は返答した。朝一の皮肉をものともせず話を続けようとする男に対し姫はベッドに横たわり話を聞く態勢に入った。前日、そのまた前日と変わることのない予定を垂れ流し聞くだけの朝のルーティン。正直何一つ頭に入ってはいない。そもそも聞く気すらないのだから。 しばらくすると、着付けの者達が部屋の前に到着した。 「リアナ様。私です。ミリアです。着付けのお手伝いに参りました」 私はベッドから起き上がると、ゆったりとした足踏みで部屋の扉を僅かに開けた。そこには二人のメイド服を着た女性が礼儀正しく待機していた。その先頭は黒髪を胸まで伸ばし、気
Read More
第二幕
 部屋に入るとすぐに着付けの作業が始まった。ミリアが先導しアロッサがその助手のような形で仕事をする。いつ見てもミリアの手捌きは一流もので手慣れているのが分かる。それに比べアロッサはどこかぎこちなく作業が遅れて見える。まだ、新人だし軽く見てあげても良いかしら?「ちょっとアロッサ! 貴方、何回言ったら分かるの? それは最後にやるから今はこっちを手伝いなさいよ! 本当にも……」「す、すみません。今やります」 人目を気にせずミリヤはアロッサに罵声を浴びせる。私には何を間違えたのか全く見当もつかないが、ミリアには何か分かるのだろう。ここは、ミリアに合わせて少し呆れた様子でも見せておこうかしら?  姫は、僅かに眉を顰めるとアロッサに視線を送った。「リアナ様。昨晩はよく寝られましたか?」「そうね。ちょっとハエが多くて寝るには……」「アロッサ! それはもういいからこっちをやりなさい!」 私の言葉は遮断された。そもそも、ミリアは私のことなど特に気にかけていない。交わす会話も毎日同じもの。自分の仕事に集中しているからだろうけど、それならそれで無理に会話してくれなくて結構。こっちは、はなから話すつもりすらないんだから。「すみません。それで、昨晩はよく寝られましたか、リアナ様?」「ええ。文句のつけようがないほどに良く寝られたわ。ミリア」「それは、良かったです。また、何かありましたら、お伝え下さい。すぐに改善するよう手配いたしますから。ご安心下さい」 私の記憶が正しければ、もう2ヶ月も前から同じ改善案を出しているはずだが、一向に改善されていない。というより改善する気がないんだと思う。次第にハエの数が減っているようにも見えるが、単に季節の移り変わりが原因だと思う。それなのにミリアときたら毎年、何の恥じらいもなく「私のおかげで改善された」と言う。本当にそうなら、もう毎晩私が寝てる間に騒がしくしないでほしい。それか、もうハエ叩きは使わずに拳でやってほしい。「リアナ様。着付けが終わりましたので、ダイニングルームへお越し下さい。皇后陛下がリアナ様をお待ちしています」「そう。お母様が……」「どうしましたか? 体調がすぐれないようですが。何か、ご不満でもありましたか。私に出来ることでしたら助けになりますから」「なんで不満があると体調が悪くなるのかしら? 私、そんなにストレ
Read More
第三幕
「……リアナ様が食事を摂っている間に部屋の掃除を済ましておきますね。ほら、アロッサ! 急いで準備するわよ。この後も、まだまだ仕事が残っているんだから急ぐわよ」「はい! 急ぎます!」 二人は質問に答えるわけでもなく姫に背を向けモップや箒を手に掃除を始めた。特に汚したつもりもないのに何をそんなに焦る必要があるのか。姫は動きやすい軽装のドレスを身にまとい二人を横目に部屋を後にする。私も特に急いでいるわけでもない、これ以上部屋にいても邪魔なだけだと二人の背中を見て思った。それにあまり長く見過ぎていると、唯一の仕事が終わらない様、段々と作業がスローモーションになる二人を見るとこになる。これしか仕事がないのも哀れだと思う。「今日は珍しく準備が早いですね姫様。そんなに、皇后陛下に会うのを楽しみにされているんですか? きっと皇后陛下も喜ばれていますよ」「全然。お母様に恥を欠かせたくないだけ。そもそも、半月に一回程度しか会わない人の顔なんて、覚えてないわ。どうせ、次に会う時までには、すっかり忘れてる。ただ時間を無駄にするだけ。早く済ませるわ」 姫はスーツ姿の護衛を置き去りにするかの如く、早足で廊下を駆ける。早朝ということもあり廊下はまだ薄暗かったが特別、気にはしなかった。その後を、やれやれといった態度でオルディボが追う。いつもであれば皇族らしくゆったりと行くが、今日はそうもいかない。宮廷内が無駄に広いせいで早足でも数分かかる。 部屋の前に着くと、数名の銃を持った兵士が扉の前に列を成し私の到着を待ち構えていた。護衛の男が姫の肩を軽く突く。姫はまるでスイッチでも押されたかのように自然と笑みが浮かんだ。今朝一番の曇りなき笑顔だ。「いつも、ご苦労様……」「勿体ないお言葉です。我々は求められた仕事をこなしているだけに過ぎません。皇族の方々の苦労に比べれば大したことではありません」 そう言葉を添えるのは、帝国陸軍ノル・レナード中将だ。歳は30代ほどであるが実際より少し老けて見え白髪混じりの髪が目立つ。我が帝国に長く務めていることもあり信頼が厚く規律正しい男である。常に何人かの兵士と行動しているため、あまり一人でいるところを見かけない。 兵士達は姫に道を譲るべく廊下の中央を空けると右手を額の前に構え、敬礼の姿勢をとった。つかさず、護衛も兵士と同じ敬礼をする。敬礼の順番から宮廷
Read More
第四幕
 私の姿を確認するや否やテーブルの席についていた我が母、皇后イザベラが複数のメイドを連れ、こちらへと急ぐ。姫とは打って変わって皇后のドレスは強欲な貴族の如く厚く豪華な物であった。その顔立ちは決して悪くはないが疲れを隠しきれないのか、いつになく老けて見える。表情も比較的穏やかであまり権威らしいものは感じられない。単に疲れているだけかもしれないけど。「しばらく見ないうちに、また一段と綺麗になって。母として本当に誇らしいわ。髪も少し伸びたんじゃないの?」「いえ、お母様。3日ほど前に切ったばかりです」「あ、あら。そうだったの…… そ、そうよね。私ったら、まだ疲れてるみたいだわ。そうだわ、朝食を摂りながら少し、お話ししましょう。今日はリアナの好きな苺ジャムを用意したのよ。一緒に食べましょう」「お母様。前も言いましたが、リアナはジャム全般が好きではありません。朝食にはいつもマフィンをいただきます。ぜひ覚えていってくださいね」 決して姫の優しい笑みが崩れることはなかった。どんなに、その場が凍りつこうとも姫の笑顔は暖かかった。姫は、それ以上何か言うわけでもなく静かに自分の席の前に立つ。皇后が寂しげな様子で姫の前の席に座ると、それを合図に姫も席についた。護衛の男は扉付近で、ただ静かに待機していた。「それで、リアナ。何か変わったことはなかったかしら? 何かあれば話してほしいわ」「特にありませんわ、お母様。いつも通りです」「そう……」 皇后は言葉を失う。テーブルの上の食事だけが減り、次第に時間が過ぎる。まるで食事に手をつけない皇后と違い姫は美味しそうに満面の笑みでマフィンを嗜む。何か言いたげな皇后には見向きもせず、姫は朝食を終えた。「今日はあまり食べる気分ではないわ。この後の社交会の準備もありますし、このくらいにしましょう。リアナ、貴方も今晩のために早めに準備なさいね」「はい。そうさせていただきますわ。ご馳走様でした」 姫は皇后が席を立つのを確認すると、すぐに立ち上がり扉へと急ぐ。まるで、一刻も早くその場から逃げ出したいかのように。すぐさま、扉が開くと姫は護衛の男に視線を向けダイニングルームを後にした。しばらく無言だった護衛もある程度の距離を進んだ辺りで思わず口を開いた。「姫様。少しは言葉を選んではいかがですか? 皇后様も姫様に会えるのを楽しみしておられたんで
Read More
第五幕
「何を言っているんですか姫様。昨日からずっと言ってましたよ。明日、ペテック公爵が見合いに来られるから覚悟しておくようにと。今朝も言ったはずです。まさか聞いてなかったんですか?」「うん。」 姫は、真顔で応えてみせた。 聞いていたと言えば嘘になるが、聞いていなかったわけじゃない。聞きたくなかったんだと思う。ペテック公爵に対して私はあまり良い印象を持っていない。 「先月も来てなかったかしら? それに私、丁重にお断りしたはずだと思うんだけど。何でまた来てるの? 早く追い返しなさいよ。ネズミより簡単な相手でしょ?」 「と言われてましても、ペテック公爵は元はと言えば隣国アルト王国の王子でした。それを戦争という形ではなく対話という形で併合し、爵位を与えています。あまり刺激しては反乱を起こされかねませんからね」 「そう。じゃ良いわよ。結婚するわ。多少、お腹が出てて頭の毛が少なくても、この際、気にしない。だから、今晩の社交会はキャンセルしておいて。今夜は、私の婚約記念日よ」 「リアナ様、そんなに早まらないで下さい」 「別に早まってなんてないわよ。ミリア、あなた私が何歳か知ってる? 17よ! いつになったら結婚できるの? もう、社交会に行くのだって恥ずかしいわ。数年前は同い年の子達と、いつ結婚出来きるかな、なんて話してたのに、もう同い年の子なんて誰もいないわよ。みんな結婚していったわ。これじゃ、良い見せ物よ」 姫はいつになく苛立った態度を見せた。と言っても別に私は結婚したいわけではない。単に、この歳になってもまだ結婚できていない自分が恥ずかしいだけ。どこの貴族の娘も14にもなれば婚約者が大体いるもの。でも、私には、それが出来ない…… 「それで、お父様は何て言ってたの」 「はい。今回も優しくお断りするように、とのことです」 「はいはい、いつも通りね。分かったわよ。お父様の命令なら仕方ないわね」 姫は体を伸ばし僅かな運動をして身体を慣らした。 「さて…… 次はどう断ってやろうかしら? そろそろ容姿に触れても良い時期だと思うんだけど。このくらいなら問題にはならないわよね?」 「そんな心配なさらなくても大丈夫ですよ。大抵の男は姫様と数分話しただけで嫌気が差して帰りますから。姫様はいつも通り自然体でいれば良いんです」 「あら、言うじゃないオルディボ。で
Read More
第六幕
それから一時間ほどの時が経ち、ようやくペテック公爵が我が宮殿前に姿を見せた。姫は護衛を含めた何人かのメイドを引き連れ公爵の到着に備える。と言っても、私が来たのは数分前のことで特に待っていたわけでもない。あっちが1秒でも遅れたら、すぐに帰るつもりでいる。 「リ、リアナ皇女…… はあ…… お、お久しぶりですなぁ……」 ペテック公爵は、お疲れだった。その太々とした顔から滝のごとく汗を垂れ流し、気味の悪い笑顔をこちらに見せつける。聞いていた通り白馬を連れていたが、ペテック公爵は、リードを握っているだけで乗馬していたわけではない。というより、同行している護衛達も誰一人として乗馬してるものはいなかった。まさか、この広大な敷地内を歩いてきたのだろうか。乗らないなら一体なんのために連れてきたんだろうか。つくづく愚かな人間だと思う。 「お会い出来て嬉しいですわペテック公爵。あれ? 随分、お疲れなようにも見えますが体調でも優れませんの? でしたら今日はひとまず帰られて、また体調の優れた時にでも来て下さい。私はいつでも、お待ちしていますよ」 「いえいえ。そんなことはありません…… ただ、少し疲れただけです。それにしても、なぜまたいきなり敷地内全域に乗馬禁止令など…… ワレが領地を離れた時には、そんな情報は無かったはずですが……」 「知りませんわ。お母様が決めたことですもの。ですよねオルディボ」 護衛は「間違いありません」と頭を下げる。どうにも腑に落ちないペテック公爵は戸惑いの表情を見せる。どうやら、カッコつけようとしたあまり馬車も連れずに来たせいで、最後まで歩くハメになったそうだ。しかし、良い運動になって良かったと思う。我ながら、良いことをしたと思う。 すぐさま、ペテック公爵を接客室へと案内する。その道中も姫と、ペテック公爵の間に護衛が入り出来るだけ接触しないように細心の注意が図られた。汗のせいなのか元からなのか普通に体臭が臭い。というか多分、後者だと思う。 「それで、本日はどういった御用件でいらしたのでしょうかペテック公爵」 姫は接客室に用意されたソファに一人座る。ペテック公爵も姫と向かい合うように用意されたソファに深々と腰掛ける。こうして向かい合ってマジマジと見てみると、ボタンが一つ外れていることに気がつく。きっと収まりきらなかったんだと思う。もう、不合
Read More
第七幕
一瞬、何を言い出したのか、その言葉に、その場にいた全ての人々の表情が凍りつく。一人、姫を除いて。 「リアナ皇女…… こ、ここは2階だと伺っておりますが、それではワレが……」 「あら、ぺテック公爵。私のためなら命だって掛けられると先程述べたばかりではありませんの。先の熱弁、大変心に刺さりましたわ。どうか、私の期待を裏切らないで下さいね! ぺテック公爵!」 姫は優しく微笑む。今日、初めて向けられた姫の笑み。ペテック公爵の拳に力がみなぎる。 「なりません閣下! おやめ下さい!」 何人かの彼方の護衛達がぺテック公爵を取り囲む。しかし、ぺテック公爵は覚悟を決めた表情で上着を脱ぎ捨てる。姫は両手を合わせ満面の笑みを浮かべる。 「離せ無礼者! 今こそ、リアナ皇女の期待に応えねばッ!」 ぺテック公爵は護衛達の静止も聞かず、ただ猛進に窓へと走った。その姿は猛獣に追われる家畜の如く滑稽なモノだった。 「はぁ…… はぁ…… はぁ…… リアナ皇女……」 「まったく。期待はずれだわぺテック公爵」 ぺテック公爵の猛進は呆気なく終わる。圧倒的な高所を前にぺテック公爵は床に崩れ落ちる。それを横目に姫は軽蔑の視線を送った。 「一つ勘違いしているようだけど、貴方が私に与えられるモノなんて命くらいなモノよ。それも出来ないでよくもまあ大口が叩けたものね。恥を知りなさい。二度と私の前に現れないでちょうだい。目障りよ」 姫は態度を一変させ、何の抵抗も無く罵声を浴びせた。その光景に動揺を隠せない公爵の護衛達。しかし、誰一人としてその場を動く者はいなかった。ぺテック公爵はあたかも命乞いでもするかのような表情で姫を見上げる。 「はぁ…… はぁ…… ど、どうか頼みます…… ひ、姫様……」 姫の眉毛がひっそりと上がる。 「あらぺテック公爵。貴方に姫という呼び方を許した覚えは一度もないはずだけど。私と対等になったつもり? 冗談じゃないわ。口を慎みなさい、"旧"アルト王国ルクス・ホーク"元"王子? ぺテック公爵の称号に傷が付いてしまいますわ。大切にして下さいね」 その言葉にぺテック公爵はただ無言に俯き、拳を握りしめた。その表情に忖度の念は見受けられなかった。つかさず、護衛の男が「離れて下さい」と姫をぺテック公爵から遠ざける。男はいたって真剣な眼差しだった。それもそのはず、こ
Read More
第八幕
日が沈み庶民達が眠りにつく中、宮廷内は夜の街を照らす月光の如く輝いていた。屋外に停泊する馬車の数からも、この集会の規模が伺える。会場内を見渡せば、何処もかしこも上品なドレスはスーツを見に纏った紳士淑女ばかり。まさに貴族の社交界に相応しい催しといえよう。 「おいメイド。ワインが無くなった注げ」 男はグラス片手に傲慢な態度で近くのメイドを呼び止める。ワインが注がれると男は礼を言うわけでもなく何食わぬ顔で会場の人々を一望する。男は若さこそ有るものの、その立ち振る舞いから僅かに中年臭さを醸し出していた。 次第に、男はグラスのワインを一気に飲み干すと空のグラスをメイドに預け歩みを始めた。その視界には二人の若々しい男女が映る。 「……そうなのですね。実は私も」 「これはこれは、お二人とも随分と楽しそうですな。私も話に混ぜていただけますか?」 男は二人の顔色を伺うこともせず、ごく自然に話に割って入る。二人も特に疑わずに、それを受け入れる。しかし、あまり歓迎する空気ではない。 「まずは、自己紹介から。私はルーティック侯爵フリーク・ライアンと申します。以後お見知り置きを。それで、そちらは……」 男は隣の女性に視線を移す。 「こ、これはルーティック侯爵お初にお目にかかります。私はフルトン侯爵家次女パクス・アンナと申します。お目にかかれて光栄ですわ」 アンナは身につけたドレスを軽くつまみ頭を下げた。 「おお、これはフルトン侯爵家の娘様。それにアンナ、実に良い名だ、きっと立派なご両親がつけられたのでしょう。いやぁ、私もお会い出来て大変嬉しいですとも。どうです、私と一つ踊っていただけませんかな? 決して恥は欠かせませんよ」 「……すみませんルーティック侯爵。実は既に決まった相手がおりますので、そのお誘いはお断りさせていただきます」 ルーティック侯爵は、ゆっくりと隣に立ちすくむ若い男性に視線を送る。 「おっと、失礼。まだ、お名前を聞いておりませんでしたな。それで、貴方は……」 「申し遅れました。私はフォックス伯爵ナルサ・マイトと申します。本日はお会いできて光栄ですルーティック侯爵」 「伯爵…… 確か、侯爵の一つ下だったような…… いえっ、これは失礼、独り言です。お気になさらず。しかし、まあ一緒に踊っていただけないのは残念ですが"
Read More
第九幕
「姫様! そんなに急いでどうするおつもりですか。まずは皇帝陛下にお会いしてから皇族揃って出席するべきです。それに、この式典は姫様の誕生祭半年前を記念したもの。主役が突然現れては皆困惑してしまいます」 一人足速に会場に向かう姫の後を護衛の男が追う。銃を持つ複数人の兵士達も、なんら姫の歩みを止めることが出来ない。「駄目よ。お父様が来てしまったら私は主役になれない。それに周りの人達も怖くて誰も私に話しかけられなくなるわ。……たまには同年代の子とも、お話ししたいのよ」 その姫の表情はどこか寂しげなものだった。思えば、最後に社交会に参加したのも、もう半年も前のことだった。その間、宮廷内部の人間以外とは一切口を交わしていない。「分かりました。ただし、あまり目立たないように入場しましょう。護衛の数も最小限に抑えますが、決して私からは離れないように。警備が万全とはいえ、姫様の命を狙っている輩がいないとも限りません。それと皇帝陛下には私の判断であると説明します。姫様の独断だと思われては、また面倒なことになりますからね」 護衛は幾つかの兵士に命令を出すと、兵力を四人にまで減らした。「あら、随分と気が効くのねオルディボ。てっきり、賛成してもらえないものかと思っていましたのに」「何年一緒に居ると思っておられるんですか。私は姫様が降誕なさった日から今日まで、ずっと側にいるんですよ。少し言ったくらいでは姫様が止まらないことくらい心得ています。それに、こういう時は無理に止めるより勝手に止まるのを待つ方が私の仕事も減って楽なんですよ」 最後に本音が漏れたようだ。姫は「良く、分かってるじゃない」と一言添える。「姫様、今から入場しますが、最後にお酒はほどほどにして下さいね。ただでさえ、多くの貴族達が集まっているんです。下手をすれば皇帝陛下の、お顔に泥を塗る事になります」 二人の兵士が小柄な門をゆっくりと開く。思っていた通りだ。会場は既に無数の貴族達で溢れかえっていた。と言っても、ほとんど見慣れた顔ぶればかりではあるが。「オルディボ閣下、それにリアナ皇女…… ご、ご、ご入場はまだ先のはずですが」 メイドのルカが一人、困惑した様子で話を始めた。「気にしなくて良い。私の判断だ。すでに話は通っている。それより、そのワインをいただいても良いか? あまり目立たないようにしたい。私と姫様
Read More
第十幕
「底辺貴族が、私にこんなことをしてタダで済むと……」 パリンッ 足下にガラスの破片が散乱する。男の威勢は雀の涙にも及ばなかった。「リ、リ、リアナ皇女…… ど、ど、どうして…… ヒッ!」 隣から伸びた手がルーティック侯爵の腕を掴む。それは、自身が上級貴族であることを疑うほどの握力であった。「おい…… 誰が底辺貴族だと?」「オ、オルディボ閣下。ち、ち、違います。まさか、リアナ皇女だとはこれっぽっちも…… その、そのですから。私はこの男に対して底辺貴様と言ったわけで」 ルーティック侯爵は辺りをキョロキョロと見渡す。しかし、誰一人として目を合わせようとする者はいない。全ての視線は姫に集中する。 おかしい…… おかしい…… こんなことがあって良いわけない。なんで、予定では皇族は一緒に登場されるはず。ルーティック侯爵の焦りが表情に現れる。「謝罪ならいくらでもします。ですから、どうか手を離してください」 まずい…… まずい…… 万が一、皇族に怪我でもさせようものなら……「リアナ皇女、どうか今回は私の無礼をお許しください。この恩はいつか……」「いった…… 急に掴んだりするから、腕痛めたじゃない」 え…… 姫は手首あたりをそっと撫でた。護衛の合図で兵士達がルーティック侯爵を囲む。構えられた銃口が四方八方ルーティック侯爵の頭部に狙いを定めた。合図一つで、頭が消し飛ぶオルディボの眼が無言でルーティック侯爵にうったえる。「お、お待ち下さいオルディボ閣下。これはあまりにも酷な話です。私とて、リアナ皇女だと知っていれば、このような無礼は決して…… そう。会場の方々に聞いてみるといい。失礼ながらオルディボ閣下の判断には間違いがあると考えるしか。それに、今回の事故はあくまでも仕方のないことで……」 トンッ トンッ 何者かが階段を降る音が響く。階段……「" 面白いことを言うなルーティック侯爵。仕方のないことか、これは詳しく話を聞く必要があるようだ。そうは思わないかオルディボ "」  護衛は握っていた腕をそっと手放す。「銃を下ろせ」その合図で兵士達は一斉に銃口を地に向ける。豪華なコートに無数の勲章、長髪に整った顔つき、威厳のある透き通った声、その全てが男の地位を象徴しているようだった。「お父様……」 姫が呟く。会場に緊張が走る。「こ、こ、皇帝陛下! ああ、私に
Read More
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status